フリーランスには退職金も厚生年金もない——老後資金を自分で作る必要性
会社員は退職時に退職金を受け取り、在職中は厚生年金に加入して、国民年金より手厚い老後の年金を受け取れる。しかしフリーランスにはこのどちらもない。国民年金のみでは老後の生活費を賄うには到底足りず、「老後2,000万円問題」は会社員以上にフリーランスに切実な問題だ。
では、フリーランスはどうやって老後資金を作るのか。答えは3つの制度を組み合わせることだ——iDeCo(個人型確定拠出年金)、小規模企業共済、新NISA。この3制度を賢く活用すれば、フリーランスでも計画的に老後資金を積み上げられる。社会保険料全般の基礎についてはフリーランスの社会保険と年金ガイドも参照してほしい。
3制度の基本比較——iDeCo・小規模企業共済・新NISA
3制度の特徴を整理する。
| 項目 | iDeCo | 小規模企業共済 | 新NISA(成長投資枠) |
|---|---|---|---|
| 月の上限額 | 68,000円(自営業者) | 70,000円 | 月換算30万円(年360万円) |
| 税制優遇 | 掛金全額が所得控除(節税) | 掛金全額が所得控除(節税) | 運用益・分配金が非課税 |
| 引き出し時期 | 原則60歳以降 | 廃業・引退時 | いつでも可能 |
| 運用リスク | あり(投資商品を選択) | なし(元本保証) | あり(投資商品を選択) |
| 流動性 | 低い(原則60歳まで引き出せない) | 低い(解約は減額受取) | 高い(いつでも売却可) |
| 向いている人 | 節税を最優先したい人 | 退職金代わりを作りたい人 | 運用の柔軟性が欲しい人 |
参考:iDeCo公式サイト(https://www.ideco-koushiki.jp/)、中小機構「小規模企業共済」(https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/index.html)
30歳スタート vs 40歳スタート——老後資金シミュレーション比較
iDeCo・小規模企業共済・新NISAをフル活用した場合の老後資金をシミュレーションする。前提として、iDeCoは年利3%での運用、新NISAは年利4%での運用(インデックスファンド想定)、小規模企業共済は掛金額の積立のみ(元本保証)とする。
月5万円を積み立てた場合のシナリオ(毎月の配分例)
- iDeCo:月2万円(節税効果重視)
- 小規模企業共済:月1.5万円(退職金代わり)
- 新NISA:月1.5万円(流動性確保)
| 項目 | 30歳スタート(65歳まで35年) | 40歳スタート(65歳まで25年) |
|---|---|---|
| iDeCo積立総額(月2万円) | 840万円 | 600万円 |
| iDeCo運用後残高(年利3%) | 約1,400万円 | 約830万円 |
| 小規模企業共済積立総額(月1.5万円) | 630万円 | 450万円 |
| 新NISA積立総額(月1.5万円) | 630万円 | 450万円 |
| 新NISA運用後残高(年利4%) | 約1,260万円 | 約714万円 |
| 3制度合計(概算) | 約3,290万円 | 約1,994万円 |
30歳スタートで月5万円を35年間積み立てた場合、3制度合計で約3,300万円の老後資金を作れる。40歳スタートでも約2,000万円に届く。毎月5万円の積立は副業月収10万円(手取り8万円)程度あれば現実的な目標だ。
節税効果の計算——iDeCoと小規模企業共済の強み
iDeCoと小規模企業共済の最大の特徴は、掛金全額が「所得控除」になることだ。これは単なる積立ではなく、積み立てながら税金を減らせる仕組みだ。
iDeCoの節税効果(月2万円の場合)
年間掛金24万円が所得控除になる。所得税率が10%、住民税が10%の場合、合計20%の節税効果で年間4.8万円の節税になる。30年間続けると累計144万円の節税効果だ。iDeCoの積立元本に加えてこの節税分も実質的な「利回り」として機能する。
小規模企業共済の節税効果(月1.5万円の場合)
年間掛金18万円が所得控除になる。同様に20%の税率で年間3.6万円の節税。元本保証でありながら積立の20%分が節税として戻ってくることになる。廃業・引退時に受け取る際も退職所得控除が適用されるため、受取時の税負担も低い。
最適な配分の考え方——自分のステージに合わせる
3制度の優先順位は、フリーランスとしてのステージによって変わる。以下を参考に、自分の状況に合った配分を決めよう。
- フリーランス独立初年度(収入不安定):まず生活防衛資金(月収×6ヶ月)を確保してから積立を始める。iDeCoは月1万円から始め、新NISAは流動性が高いので並行して積立するのが安全
- 収入が安定してきた段階(副業月10万〜/フリーランス年収400万〜):iDeCo・小規模企業共済を満額に近い水準で積立。節税効果が最大化する
- 収入がしっかりある段階(年収600万円超):iDeCo・小規模企業共済の満額積立 + 新NISA成長投資枠(年240万円)をフル活用する
副業収入と会社員手取りの関係については会社員 vs フリーランス 手取り比較も参考にしてほしい。
まとめ——フリーランスの老後資金は3制度の組み合わせで作る
退職金も厚生年金もないフリーランスにとって、老後資金の自己調達は不可欠だ。iDeCo・小規模企業共済・新NISAの3制度は、それぞれ異なる強みを持ち、組み合わせることで節税・リターン・流動性のバランスを取れる。
- ☑ iDeCo:月68,000円まで。節税効果最強。60歳まで引き出せないが、老後資金の核心として活用
- ☑ 小規模企業共済:月70,000円まで。元本保証で退職金代わり。廃業・引退時の一括受取で税優遇
- ☑ 新NISA:いつでも引き出せる柔軟性。運用益非課税。中期・長期の運用資産として活用
- ☑ 30歳スタートで月5万円積立 → 35年で約3,300万円(3制度合計)
- ☑ 40歳スタートでも月5万円積立 → 25年で約2,000万円(3制度合計)
免責事項:本記事のシミュレーションは2026年4月時点の制度・概算利率に基づいた参考値だ。実際の運用成果は市場状況によって変動する。具体的な制度への加入・資産計画については、各機関の公式サイトまたはファイナンシャルプランナーへの相談を推奨する。
老後資金シミュレーション——月3万円から始めた場合の現実的な試算
フリーランス独立初期はそれほど余裕がないケースも多い。月3万円から積立を始めた場合のシミュレーションも確認しておこう。
| 積立月額 | 30歳スタート・35年間 | 40歳スタート・25年間 |
|---|---|---|
| 月3万円(iDeCo2万+NISA1万) | 約2,050万円 | 約1,250万円 |
| 月5万円(iDeCo2万+共済1.5万+NISA1.5万) | 約3,290万円 | 約1,994万円 |
| 月10万円(各制度をフル活用) | 約6,500万円 | 約3,900万円 |
月3万円から始め、収入増加に合わせて積立額を増やしていくのが現実的なアプローチだ。副業収入が安定してきた段階で月5万円に引き上げ、フリーランスとして本格的に稼げるようになった段階で月10万円を目指す。段階的に積立額を増やすことで、老後資金を確実に積み上げていける。
副業収入の増やし方については、各カテゴリの記事を参考にしてほしい。まずは安定した副業収入の基盤を作ることが老後資金形成の前提だ。